
「犬を飼うなら、ナメられたら終わり」
「飼い主がリーダーにならないと、言うことを聞かなくなる」
…そんな言葉を一度は耳にしたことがあるかもしれません。
これはいわゆる**「アルファシンドローム(権勢症候群)」**という考え方に基づいたしつけ理論です。
一時期は専門書やテレビ番組などでも盛んに紹介され、犬のしつけ=主従関係の徹底という認識が広く浸透しました。
しかし、現在ではこの考え方そのものが誤解や時代遅れの理論であると、国内外の多くの動物行動学者たちが指摘しています。
今回は、犬のしつけに関するこの「古い常識」を一度リセットし、最新の研究に基づいた正しい関係づくりについて、初心者の飼い主さんにもわかりやすくご紹介します。
つまり犬が咬んだり、言うことを聞かないのには
それぞれに特定の原因が存在します。

アルファシンドロームとは何だったのか?
「アルファシンドローム」は、犬が家庭内で自分を“リーダー”だと勘違いし、人間の命令に従わなくなったり、攻撃的になるという理論です。
これはもともと、オオカミの群れの中での“順位社会”に基づいた考え方でした。
犬はオオカミの子孫だから、人間との関係でも序列を意識して行動する、というわけです。
そのため、「犬を従わせるには、飼い主が“アルファ(最上位)”の存在になるべき」とされ、次のようなしつけが推奨されていました。
- 犬が先にご飯を食べてはいけない
- ドアを先に通らせてはいけない
- 上に乗らせない
- 無視することで“上下関係”を教える
…しかし、この理論自体が大きな誤解だったことが、近年の研究で明らかになっています。
野犬の観察から見えてきた「犬の本当の行動」

最新の動物行動学では、犬は人間に従属する動物ではなく、むしろ社会的に協調する動物であることが分かってきました。
特に、野犬や自由に暮らす犬の群れを長期間観察した結果、犬同士に明確な上下関係や序列が存在しないという事実が多くの研究で示されています。
また、オオカミ研究のベースになった観察も、人為的に集められた個体群によるもので、本来の自然な群れ行動ではなかったという指摘もあります。
つまり、「犬=オオカミ」「群れ=上下関係」「しつけ=主従の確立」という図式そのものが、人間側の誤解にすぎなかったのです。
「しつけ」と「支配」は違う。犬の行動の原因を正しく理解しよう
犬が言うことを聞かなかったり、攻撃的な態度をとったりするのは、「飼い主より上に立ちたいから」ではありません。
多くの場合、そこには次のような合理的な理由やストレスが隠れています。
- 不安や恐怖からの防衛反応
- 運動不足によるフラストレーション
- 適切な刺激や学習が不足している
- 健康上の問題(痛み、疾患)
つまり、問題行動の多くは“上下関係”の問題ではなく、環境や経験、健康状態に起因するものなのです。
海外の専門機関も「アルファ理論」を否定しています
アメリカ獣医師会(AVMA)やイギリスの動物行動学会(ASAB)をはじめとする複数の専門機関は、アルファシンドロームの概念を明確に否定しています。
これらの機関は、「リーダーになることを前提にしたしつけ」ではなく、**ポジティブ・トレーニング(報酬ベースのしつけ)**や、犬の個性を尊重したアプローチを推奨しています。
また、アルファ的しつけを受けた犬の中には、不安やストレスから攻撃的行動を起こすようになったケースも報告されており、問題行動を悪化させてしまう恐れもあります。
犬と暮らす本当のコツは「信頼関係」

犬は家族の一員です。
私たちと同じように、安心できる環境と信頼できる相手との関係を求めています。
「言うことを聞かせる」ではなく、「伝える」「理解する」ことがしつけの本質です。
- 叱るより褒める
- 怒るより観察する
- 無理に従わせるより、一緒に学ぶ
このような視点が、現代のしつけにおいては主流になりつつあります。
犬との関係においてアルファシンドロームの考え方に基づいたトレーニングが行われることがありますが、実際にはこの方法が問題を引き起こすこともあります。
攻撃的な行動:アルファシンドロームに基づいたトレーニングが行われた犬は、不安やストレスから攻撃的な行動を示すことがあります。
信頼関係の崩壊:犬は家族の一員として、愛情と理解に基づく関係を求めています。アルファシンドロームのトレーニングは、この信頼関係を損なう可能性があります。
まとめ:犬との関係は「上下関係」よりも「理解と信頼」で築くもの
時代と共に、犬との関係も、しつけの常識も変わっています。
かつては当然とされた「リーダーになるべき」という考え方も、今では多くの専門家によって否定されています。
犬の行動には一つ一つ理由があります。
「犬が言うことを聞かない=ナメられている」ではなく、まずは犬が何を感じ、何に困っているのかを理解しようとする姿勢が大切です。
情報は常に更新されています。
古いしつけ理論に縛られることなく、科学的でやさしいアプローチで愛犬と向き合ってみてくださいね。