
はじめに:あなたの愛犬は、静かに「話しかけて」います
そしてその気持ちを、カーミングシグナル(Calming Signal)と呼ばれるボディランゲージを使って伝えてくれています。
例えば、愛犬があなたの顔を見ずにそっぽを向いたり、急にあくびをしたことはありませんか?
それは、「今ちょっと緊張してるよ」「落ち着きたいな」という犬からのメッセージかもしれません。
このガイドでは、カーミングシグナルの意味と種類、読み取り方から誤解を防ぐポイント、犬との信頼関係を深めるためのコツまで、網羅的にわかりやすく解説します。
第1章|カーミングシグナルとは何か?
● 定義と役割
カーミングシグナルとは、犬が自分自身と相手を落ち着かせるために発するボディランゲージの総称です。
争いを避け、社会的な摩擦を減らすための「非音声的言語」とも言えます。
この概念を広く世に知らしめたのが、ノルウェーのドッグトレーナートゥーリッド・ルーガス氏。
彼女は数十年にわたり犬の行動を観察し、30種類以上のシグナルを記録しました。
● どんな時に使う?
- 緊張しているとき
- 怖いと感じたとき
- 他の犬と関わるとき
- 飼い主との関係を穏やかに保ちたいとき

第2章|犬に感情はある?科学的根拠
近年の研究では、犬の脳において**人間と同じく感情を司る領域(扁桃体・前頭前野など)**があることが確認されています。
また、セロトニンやドーパミンといった神経伝達物質も同様に働いており、犬は「嬉しい」「怖い」「安心する」といった感情を確かに持っていると考えられています。
📚 出典:
『ドッグズ・マインド』(ブルース・フォーグル)
『犬の科学』(スティーブン・ブディアンスキー)
第3章|代表的なカーミングシグナル一覧【図解的まとめ】
シグナル | 意味 | 状況 |
---|---|---|
あくびをする | 緊張、ストレス、不安の軽減 | 叱られたとき、突然の接触時 |
そっぽを向く | 敵意がないことを示す | 人が近づくとき、カメラを向けたとき |
舌をペロッと出す | 親愛、服従、ねだり | 撫でられた後、おねだり中 |
プレイバウ | 遊びたい意思表示 | 他の犬や飼い主への誘いかけ |
カーブを描いて歩く | 平和的な接近 | 犬同士の挨拶や人間との距離調整 |
手足をなめる | 自己安定行動/ストレス反応 | 騒音、不安環境、孤独 |
ゆっくりまばたき | 安心、信頼 | 落ち着いた状態で見つめ合うとき |
第4章|カーミングシグナルと年齢・犬種・性格の違い
● 年齢別の特徴
- 子犬:感情表現がストレート。あくびやなめ行動が多め。
- 成犬:学習によってシグナルの出し方が洗練される。
- シニア犬:疲れや体調によるサインと混同されやすいため要観察。
● 犬種による傾向
レトリバー系:フレンドリーなため、プレイバウが頻出。
柴犬・秋田犬:感情表現が控えめな傾向あり。小さなサインを見逃さないよう注意。
トイプードル・チワワ:比較的豊かに表現。あくびやそっぽ向きが顕著。
第5章|複数のシグナルが同時に出るケース
犬は一度に複数のカーミングシグナルを組み合わせて感情を伝えることがあります。
例:
「そっぽを向く」+「舌なめずり」=やや強めの不快感
「プレイバウ」+「尻尾ブンブン」=全力で遊びたい!というハイテンション
このように「組み合わせ」で意味が変わることもあるため、全体の文脈を観察する視点が重要です。

第6章|誤解されやすいシグナルとその解釈
行動 | 誤解 | 実際の意味 |
---|---|---|
あくび | 眠い? | ストレスや警戒の可能性 |
尻尾を振る | 喜んでいる? | 緊張・警戒の尾振りもある |
目をそらす | 無視? | 敵意がないと伝えたい |
そっぽを向く | 反抗? | 状況から逃げたい気持ち |
第7章|実例から学ぶ:犬の気持ちを読み取るレッスン
🐾 ケース1:初めて来客が来たとき
- 犬が来客を見てそっぽを向き、しばらくあくび
→ 緊張して「敵意はない」と伝えている
→ 飼い主が間に入って落ち着ける環境を提供
🐾 ケース2:しつけ中に急に舐めてくる
- 飼い主が厳しく叱ると、犬が手を舐めてくる
→ 服従ではなく、「怖い」「やめて」のサインかも
→ 一呼吸おいて、穏やかに接し直すのが◎
第8章|よくある質問(Q&A)
Q. カーミングシグナルは毎回同じ意味?
→ NO。犬の状態や環境、相手によって微妙に意味が変わるため、「絶対的な意味」はありません
Q. 見落とすとどうなる?
→ 犬は「伝わらない」と感じてストレスを蓄積し、吠え・噛み・無気力といった行動に移行する可能性も。
Q. 人間はどう接すればいい?
→ 犬がシグナルを出した時は、圧をかけず、少し距離を置く・視線を外す・ゆっくり動くなどが効果的です。
第9章|まとめ:犬の気持ちに気づける人になろう
犬は、決して無言ではありません。
その代わり、カラダ全体を使って、懸命に心を伝えているのです。
- 犬のサインに気づくこと
- その意味を深読みしすぎず、でも真摯に受け取ること
- その積み重ねが、愛犬との「信頼」という絆を強くしていくのです。
参考文献・出典
- 『犬の科学』スティーブン・ブディアンスキー(築地書館)
- 『ドッグズ・マインド』ブルース・フォーグル(八坂書房)
- 『犬の家庭教師』中村重信(WAVE出版)
- 『犬の雑学』篠原淳美(インデックスコミュニケーション)
- Canini Tokyo公式ブログ:https://caninitokyo.com